kazumichi_h2007-03-13

Pierre Legendre, La Balafre. A la jeunesse desireuse..., Paris, Mille et une nuits, 2007.
http://www.amazon.fr/Balafre-Discours-%C3%A9tudiants-science-lignorance/dp/2842058917/

ルジャンドルの新刊は、「科学(学問、サイエンス)」というテーマで高校生に向けてなされた講演を中心とする小著。「入門」と題されているときにかぎって、かえって難解だったりすることの多い著者だけに、今回もやや疑心暗鬼であったが、蓋を開けてみるや、驚くほどの明快さに目を疑った。ユダヤキリスト教文明と語られる西洋文明が、実はユダヤ・ローマ・キリスト教文明であることを説明した第一部、主体の生成と否定性の関係を語った第二部と、非常に整理された議論が続く。後半の「応用編」も、特にアイデンティティの問題に関して、教えられるところが多かった。人間性の「奈落」を語るルジャンドルが、これだけ明快な議論をすると、本質的な何かが実は取り逃がされているのではないかと心配になるが、それは杞憂というものだろう。12世紀になされたキリスト教によるローマ法の「再生」を、経済を学ぶ学生たちに向けて、「キリスト教によるローマ法の株式公開買い付け」と呼んでみたりするあたりが微笑ましい。人間を「分割」するものとしての「性」についての議論は、やや掘り下げ不足なところもあるが、それは読み手であるわれわれが引き受けるべき仕事である。