指紋というと、今では犯罪現場で粉をはたいて採取する場面がすぐに思い浮かぶが、19世紀末にはじめて指紋法が導入されたころは、あくまで再犯者の同定が主たる目的だった。つまり犯罪者の指紋を採取しておいて、その後同じ犯罪者がまた捕まったら、指紋を確認して身元を偽っていないか確かめるという利用法である。
指紋法の発明者としてあげられるのは、ウィリアム・ハーシェルとヘンリー・フォールズのふたりだが、その後指紋の分類法を開発したゴルトンがハーシェルを持ち上げたことなどもあり、日本で医師として働いていたこともあるフォールズのほうは、歴史から忘れられていく。
しかし犯罪現場での指紋の利用法を最初に提案したのは、実はフォールズなのではないかとして、フォールズの名誉回復を目指したのが以下の書。

G. W. Wilton, Fingerprints: History, Law, and Romance, London, William Hodge, 1938.


犯罪現場での利用と、再犯者特定という目的の利用は、まったく違う文脈に属しているような気がするので、このふたつの流れを区別して指紋の歴史を見直す必要があると思う。