ジャ・ジャンクー『長江哀歌』
前作『世界』は、世界の名所が二分の一スケールになって集まった北京の「世界公園」にカメラを向けてみたら面白いんじゃないか、という作品。今作は、三峡ダムの下に沈もうとしている町でカメラを回してみたら面白いんじゃないか、という作品。どちらも確かに面白かったのだが、処女作『一瞬の夢』での圧倒的な才能を前にした記憶が未だ覚めやらない身からすると、物足りなさはいかんともしがたい。小道具の使い方に冴えがない。『一瞬の夢』で、安っぽいライターから流れる「エリーゼのために」が、最初はただの雑音だったのが、最後には見ているこちらにも切ないメロディに聞こえてきてしまうという展開は見事だった。それに比べて今回は、携帯電話の番号を交換し合った友人の着信音が、瓦礫の下から聞こえてきて、それで友人が生き埋めになったのを知る、なんて、ちょっと作為的というか、饒舌に過ぎる気がする。饒舌と言えば、別にCGを使うこと自体には文句はないのだが、ロケットみたいな奇妙な建造物の廃墟が、本当にロケットになって飛び立つというのは、余計だった。あの廃墟が背景にただのっそりと建っているだけで十分だったのではないか。