嘉戸一将「「忠君」と「愛国」−−明治憲法体制における「明治の精神」」

極めて重要な論考であり、著者によるさらなる壮大な研究へと結びつく萌芽であることを予感させる。
国民国家を定着させるために奮闘した明治の思想家たちの言説の緻密な分析をとおして、「祖国を愛する」という西洋的な擬制が、ほとんど移入不可能な特異なものであることを、逆照射的に明らかにする。
「忠君」と「愛国」を結びつける回路を結局は編み出しえなかった近代日本の制度は、「個の制度化・主体化」の問題を、プライベートな領域に丸投げする(「私化」する)、過酷な世界を構築する。
教育勅語」への回帰を謳う今日の素朴な保守派は、この論文によって、現代の「道徳」の混乱がむしろその「教育勅語」を含む明治の諸制度に原因を持つことを学ぶだろう。


なお版元の以文社からは以下のような注目すべき書物の刊行予告も出ている。

夜戦と永遠 フーコー・ラカン・ルジャンドル

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