2007年から鳴り物入りで導入された、外国人に対する指紋認証が、指にテープを張り付けた不法入国者によってすり抜けられるというニュースが相次いでいるが、当然の帰結であるように思える。


指紋認証というのは基本的に、すでに採取された指紋のリストと、新たな指紋を照らし合わせることでしか機能しないのである。ところが今行なわれている外国人の指紋認証は、(おそらく非常に不完全な)犯罪者の指紋リストと、入国者の指紋を照らし合わせているだけで、そのリストに載っていない指紋は「シロ」ということになってしまう。


たとえばATMの静脈認証は、機械がすでに登録ずみの静脈だと認識したときにのみ、アクセスを許可するだろう。登録されていない静脈は、認証不能として拒絶されるから、なりすまし等の被害が防げるのである。これが逆に、登録されている静脈だけ拒否して、登録されていない静脈すべてにアクセスを許すようになったらどうなるか。現行の外国人に対する指紋認証は、こういうことをやっているに等しい。


言いかえれば、外国人に対する指紋認証は、「安全な」入国者のリストがすでにあって、それに合致したときのみ入国を許し、リストにない人物(および犯罪者リストに載っている人物)は拒否する、という形でなければ、機能しないのである。しかしそのためには、入国する可能性のある人物すべてのリスト、すなわち世界中の人間すべての指紋リストが存在しなければならないわけだが、そんなリストを作成することが不可能であるのは言うまでもない。


こんなことくらいは導入する前からわかっていた人間もいるはずなのだが、それでも導入が急がれたのは、システムを納入した業者の利権がからんでいるとしか思えず、当然そこでは多額の税金が動いているのである。批判されるべきなのはこの点であるはずなのだが、認証すり抜けのニュースが出るたびに、「これだから不法入国者はけしからん」という話にしかならないのは、完全に目をくらまされていると思う。

不法入国:他人の指紋はり、認証すり抜けか 4容疑者逮捕

2009年7月29日 12時56分 更新:7月29日 13時2分

 警視庁組織犯罪対策1課と保安課などは29日、東京都新宿区新宿7、ホステス、朱民敬(シュ・ミンギョン)容疑者(32)ら韓国籍の男女4人を入管法違反(不法入国など)容疑で逮捕したと発表した。

 「他人の指紋をはりつけて生体情報認証システムをすり抜けた女が赤坂のクラブで働いている」との情報が警視庁に寄せられ、捜査していた。警視庁によると朱容疑者は不法入国・滞在の容疑は認めているが「昨年末に釜山から貨物船で九州に入国した」と認証システムのすり抜けは否認しているという。

 朱容疑者の逮捕容疑は、08年10月31日以降に不法入国し、滞在したとしている。朱容疑者は02年と08年に不法滞在などの容疑で逮捕され退去強制処分になっていた。【町田徳丈】
http://mainichi.jp/select/today/news/20090729k0000e040057000c.html