明治12(1879)年、川路利良を団長とする日本の警察関係者が、欧米に向けての視察旅行に出発する。日本の警察関係者の海外出張としては、3回目にあたる洋行であった。この行程については随員の佐和正が、帰国後に『航西日乗』としてまとめている。出発は2月13日、佐和らが帰国したのは翌13年8月21日であった(川路は渡航中に病状が悪化、12年10月8日に帰国)。
13年3月にマルセイユからフランスに入国した一行は、5月からパリ警察の視察を行う。6月14日、一行は写真局を視察する(佐和正『法蘭西・質問録』)。

写真局ニハ罪因ノ写真、及犯罪ノ場所、証拠物件等ヲ写シ、之ヲ蔵置シ検索、及裁判上ノ考証ニ供ス。罪因ノ写真ハ該犯ノ名字、アベセノ頭字ヲ以テ部分シ、幾個ノ小箱ニ貯フ。是、五年已来ノ新設ニ係ルト云フ。
凡ソ写真ヲ要スル犯罪ノ場所、又ハ行倒人等ノ為メ、コト本庁外ニ係ルモノモ亦此局ヨリ写真工手ヲ発遣シテ之ヲ写サシム。
又、各所囚獄、肆屍場、往年塞納河洪水ノ真景、火薬ノ為メ崩壊セシ家屋ノ写真ヲ蔵ス。就中、数葉ヲ請求ス。

アルフォンス・ベルティヨンが、父親の紹介で、パリ警察の助手の職についたのが、1879年3月15日。彼は日本からの一行とすれ違うことはあったのだろうか。


参考文献:中原英典「佐和正・『法蘭西・質問録』」(上)(下)、『警察研究』第44巻、9、10号、1973(昭和48)年。


追記:佐和正『航西日乗』は国立国会図書館近代デジタルライブラリーに収録されている。